脳性麻痺

DISEASE

概要

OVERVIEW

「脳性麻痺」とは、生まれながらの脳損傷により、身体・精神にさまざまな症状が見られる症候群です。
ただし「生まれながら」と言っても、脳性麻痺は「遺伝的な病気」というわけではありません。一般に、脳が損傷されるのは出産前後の期間、つまり胎児期の異変や出産のトラブルによるものと考えられています。

まずは、脳の基本について確認しておきましょう。脳性麻痺の理解には、脳に関する基本的な知識を踏まえておく必要があります。
脳は中枢神経とも呼ばれ、その本体はたくさん神経細胞が集まった集合体です。人間の心身をコントロールするという複雑な働きをしています。

ところで、脳は生命活動の中心的役割を果たしつつ、一方で、それ自体はとても繊細です。脳の神経は、ほかの組織と異なり一度傷つくと元には戻りません。
脳細胞の「再生しない」という点は、骨や筋肉、肌などの細胞とは異なった性質です。

再生不可という脳の特性は脳性麻痺にも関連します。脳性麻痺は脳の損傷によるものであり、その影響は永続的です。症状は患者さん個々によって多様で、運動・感覚の障害のほか、記憶、思考の発達の遅れ、感情面に影響するものなどがあります。
ただし、症状がそのまま生活の支障になるわけではありません。「何が課題となるか」は環境によっても異なり、発育期(※)に合わせた対応が必要です。こうした視点から、脳性麻痺は「病気」ではなく、「障害」という捉え方もできます。

※出典:日本学校教育相談学会「37 子どもの発達と発達課題」P.37-2〜37-3

仮に障害として考えた場合、対応は医療的な治療のみとは限りません。医療・福祉・介護といった総合的な視野で、課題の解決を図ることが大切です。

脳性麻痺の完治は難しいですが、療育環境の整備や社会資源(公的な補助サービスなど)の活用によって状況は変化します。
「今ある課題」を一つひとつ解決し、可能な限り日常生活・社会生活の改善を図ることが重要です。

原因

CAUSE

脳性麻痺の原因となるのは、脳の損傷です。定義のうえでは、「受胎(妊娠)から生後4週間以内の新生児の段階で脳細胞が傷ついてしまうこと」とされます(※1)。

では、なにが脳損傷のきっかけとなるのでしょうか。脳損傷の起因、つまり脳性麻痺の原因とされるのが、以下の項目です(※2)。

  • 脳形成不全(脳の奇形や発育障害)
  • 胎児感染症
  • 双胎間輸血症候群(胎児期の循環障害)
  • 脳血行障害
  • 虚血性低酸素性脳症
  • 新生児期呼吸循環障害
  • 高ビリルビン血症 (核黄疸)
  • 脳炎
  • 頭部外傷

※1 出典:日本リハビリテーション医学会 監修「脳性麻痺リハビリテーションガイドライン第2版」P.15

※2 出典:厚生労働省「医療-障害のある子どもの成長と発達の特徴」P.36

(前兆)症状

SYMPTOMS

脳性麻痺の症状では、筋肉の過剰な緊張による動作のぎこちなさ、あるいは運動時のバランスに問題があるものなどがあります。
症状は個々によりますが、以下の4つの特徴に分けられています。

  • けい直型
  • アテトーゼ型
  • 運動失調型
  • 混合型

「けい直型」は、「身体のこわばり」が特徴です。筋肉の緊張がつよく、体幹や手足の動きが固くなります。動作全体として、ぎこちないのが特徴です。
筋肉の過剰な緊張は関節への負担となり、関節の脱臼・可動範囲の低下・変形をきたすケースもあります。

「アテトーゼ型」は、「不随意運動(ふずいいうんどう)」が目立ちます。不随意運動とは、「自分の意思とは無関係な動作」という意味です。
アテトーゼ型では、なにか動作をしたとき、過剰な動作や余分な動作が生じます。たとえば、椅子から立ち上がるとき、「手足に余分な動きが加わる」、「体幹が左右に大きく動揺する」といった、動作が生じてしまうのです。こうした不要な動きは、自分の意思とは無関係に起こります。

「運動失調型」のタイプは、バランス調整を不得意とします。体幹・手足の震え、身体のふらつきなど、平衡感覚を失ったような動きが特徴です。
立ち上がろうとすると倒れたり、自立歩行ができたとしても転んだり、動作時の不安定さが目立ちます。

「混合型」とは、「けい直型」「アテトーゼ型」「運動失調型」のいずれかが2つ以上重なっているタイプのことです。
脳性麻痺の中では、とくに「けい直型」と「アテトーゼ型」の重複した混合型がもっとも多いとされています(※)。

※出典:大阪府「一般整形外科医を対象とした脳性麻痺患者診療マニュアル」

治療

TREATMENT

脳性麻痺の治療では、症状一つひとつの改善を目的とします。現在の医療において、脳損傷そのものを治療するのは困難です。そこで治療方針としては、できうる限り日常生活をスムーズに送れるように支援することが重要となります。

治療では、以下の4つの方法をバランスよく実施することが大切です。

  • 薬物療法
  • 装具・補助具・ギプス
  • 手術
  • リハビリテーション

薬物療法の目的は症状の緩和です。脳性麻痺では、筋肉の過緊張による関節の変形、痛みなどが見られます。また、過剰な筋緊張が動作の障害となる場合も少なくありません。
そこで、筋肉の緊張を和らげる薬が使用されます。たとえば筋弛緩薬、ボツリヌス菌注射薬、バクロフェン注射薬などが代表的です。
これらの薬は神経に作用し、筋肉の過剰な緊張を改善する効果が期待できます。

症状によっては、装具・補助具・ギプスも有効です。装具類は動作の補助・支持の助けとなり、日常動作の改善につながります。さらに姿勢矯正・関節変形の予防策としても有益です。
装具類は多種多様なものがあるため、必要なものを正しく活用しなければなりません。医療機関では、さまざまな専門職が連携し、装具類の選択から使用までを支援します。適切な装具選びと活用により、将来的な障害を予防することが可能です。

関節の変形が著しい場合などには、手術を行う場合もあります。手術の対象となるのは、主に二次障害(注1)です。重度の姿勢不良や関節変形などに対し、神経切除、筋肉の延長、骨切りなどが検討されます。
[注1 「二次障害」:脳性麻痺の影響による副次的な症状であり、関節の変形・脱臼、姿勢不良による腰痛などを意味します]

最後にリハビリテーションについてです。脳性麻痺の治療では、リハビリテーションが重要な役割を担います。
リハビリテーションの目的は、症状の改善、二次障害、さらに日常生活の改善です。リハビリテーションは、以下3つの専門分野から構成されます。

  • 理学療法(PT)
  • 作業療法(OT)
  • 言語聴覚療法(ST)

「理学療法(PT)」は、主として運動療法を用いる治療です。歩行、立ち座り、寝返りといった基本動作をスムーズに行えるようにトレーニングします。

「作業療法(OT)」は、日常生活を想定した応用動作の獲得を目指します。たとえば食事やトイレ動作、筆記具の使用などは、就学・就職に欠かせません。OTでは、こうした細かい動作の獲得に取り組みます。

「言語聴覚療法(ST)」は、発声や飲食などを専門とする部門です。それ以外にも、文章作成・会話・記憶など、コミュニケーションもSTが担当します。

上記に記載した治療のほか、社会資源を活用した取り組みも重要です。脳性麻痺に対する支援は、医療のみでは充分とは言えません。身体機能に対する治療はもちろん大切ですが、生活の質を高める視点も重要です。
そのためには医療のみならず、福祉や介護といった分野も含め複合的な取り組みが必要となります。

当リハビリセンターのリハビリ

REHABILITATION

一般的なリハビリ

脳性麻痺のリハビリは、小児から成人以降と幅広く行われます。幼児期から成人にかけて、細かい運動、粗大な運動、言葉、物事の考え方等々複雑に絡み合い、発達・成長していきます。脳性麻痺の場合、障がいの程度によって個人差はありますが、発達の過程に制限が出現していきます。リハビリを行う際は、お子さんの現在の発達レベルや出来ることを活かして、身体能力の向上や成長につなげる役割を担っております。理学療法では、寝返り、起き上がり、立ち上がり、歩行と言った基本的な動作能力、作業療法では、生活動作(食事動作、操作する)が主に行われます。
小児の分野では、ただ身体を動かすだけではなく、お子さんの興味を誘い、行動に繋げる「アフォーダンス理論」を利用して飽きさせないリハビリをしていくのも特徴です。
成長が進むにつれ、思春期や成人といった、心と身体が大きく変化する時期に対してのリハビリも行います。実際に生活していくうえで、不良な姿勢や歩行が続けば、一部の関節や筋肉に負担がかかります。その結果、頚椎症や変形性関節症と言った二次障害が出現する事もあります。そんな二次障害に対して、対策・予防方法をお客様ご自身とご家族に対して情報を発信していきます。

当リハビリセンターのリハビリ

当リハビリセンターは、病院と遜色のないリハビリが提供出来るよう、専門知識と最新の機器を兼ね備えた施設となっております。リハビリの内容は、麻痺による手を使用した作業、歩行を始めとした基礎動作等々、お客様のニーズに全て応えられるようになっております。
主な流れは、以下のとおりです。

  • 体験時にカウンセリング、全体の評価及びリハビリ
  • 体験後、問題点や課題を把握
  • 機能改善・目標達成までのプランを立案
  • お客様のニーズに合わせたリハビリを実施
  • 再評価・目標の達成度の確認
  • 目標達成

また当リハビリセンターは、一般的なリハビリ施設との大きな違いが2つあります。

(1)お客様のニーズを優先
脳性麻痺のリハビリは、お子さんの身体能力のみならず、発達、心理、環境、家庭と複雑に絡み合います。脳性麻痺という病気や後遺症でもお客様ご自身、ご家族によって悩み方は千差万別です。お客様が持っている「悩み」や「やりたい事」があれば是非ご相談ください。私たちはお客様が求めているニーズ・希望に沿ってリハビリ計画と目標の立案を実施し、お客様に寄り添ってリハビリの対応を行っていきます。

(2)セラピストと最新のテクノロジーの融合
また当リハビリセンターでは、最新のテクノロジーを使用したリハビリにも力を入れております。身体を動かすには、お客様ご自身の意思が必要不可欠となります。セラピストがただ意図的に動かすよりも、「イメージした動作」と「実際の動作がリンク」することによって脳は活発になります。このことを繰り返し、「できた!」と言う感覚を増やし、モチベーションを上げることが脳性麻痺のリハビリの基礎となります。
それを実現するテクノロジーとして、当リハビリセンターでは筑波大学が開発したロボットスーツ HAL®(Hybrid Assistive Limb®)や信州大学が開発した歩行支援ロボットcurara®を活用してリハビリを実施していきます。これらのロボットは、実際に脳卒中を始めとした、脳・神経に関する疾患を患った肩に対して、改善が見られた実績のあるリハビリロボットになります。
このようにセラピストの専門的な知識と経験、テクノロジーによるお客様の秘めている能力を引き出す事で後遺症の改善を目指していきます。改善した後は、そこから動作に繋げ、生活に繋げ、暮らしに繋げると言う順序で脳性麻痺に対するリハビリを行います。

最後に

このようにセラピストとリハビリロボットを組み合わせ成功体験を増やしていくのが、当リハビリセンターの特徴となっております。成功体験が増えると「また挑戦してみよう」「どうやって動かそう、こうすると動きやすいくなるのでは?」と考えるきっかけになります。考えることは脳を刺激しますので、新たに神経の回路を構築し機能の改善に繋がります。適切な難易度を設定していき、段階を踏みながら目標を達成していけるリハビリを行います。
些細な事でも大丈夫です。脳性麻痺で困っている事がありましたら、是非ご相談ください。私たちはいつでもお待ちしております。

この記事を書いた人

大野 真之介

大野 真之介

理学療法士 / 認定理学療法士(脳卒中)

2016年に理学療法士免許を取得。同年より愛知県内の大学病院で勤務し、回復期・急性期・外来のリハビリを経験。急性期ではSCU(脳卒中集中治療室)の専任理学療法士としても勤務。
これまで主に脳血管疾患・脊髄損傷・神経難病の方のリハビリに携わる。2020年に日本理学療法士協会の認定資格である認定理学療法士(脳卒中)を取得。2022年11月から脳神経リハビリセンター名古屋に勤務。
私は常に「一緒に進めるリハビリ」を心がけています。療法士がリハビリをするのではなく、お客様にも“動き方”や“変化”を知ってもらいながら、運動を通して目標達成を目指しています。目標に向けて一緒に挑戦していきましょう。全力でサポートします。