脊髄小脳変性症

DISEASE

概要

OVERVIEW

「脊髄小脳変性症」とは、脳の後方にある「小脳」の障害により、運動の協調性を失う病気です。

たとえば、物を取るために手を伸ばしたとき、肩・腕・手のそれぞれの部位が共同して働きます。さらに動作を安定させるために、体幹・下半身が上半身を支えなければなりません。これらの運動を調節し、動作のバランスを安定させるのが小脳の役割です。

小脳の働きが破綻する脊髄小脳変性症では、運動の協調性が阻害され、一つひとつの動作がばらばらになります。これが「運動失調(しっちょう)」と呼ばれる症状です。
脊髄小脳変性症では、運動の失調をきたすため、歩行時のふらつき、手の震え、発声の乱れなどが生じます。

脊髄小脳変性症は治療が難しく、メカニズムも未解明な難病です。発病すると徐々に進行し、長期的に病気と付き合っていかなければなりません。闘病にかかる心身負担だけでなく、経済的なストレスも深刻です。
そのため、さまざまな公的サービスが受けられます。厚生労働省の「指定難病」として、医療費助成制度の対象であるほか、40歳未満であっても介護サービスの利用が可能です。

日本における脊髄小脳変性症の患者数は約2〜3万人とされ、有病率は人口10万人あたり18.6人と推定されています。
このうち、およそ3割が遺伝性(家族性)によるものです。約7割の症例に関しては、詳しい原因が分かっていません(※)。

※出典:日本精神神経学会・厚生労働省(監)「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018」P.21

原因

CAUSE

脊髄小脳変性症の原因は、発症メカニズムの違いによって以下の2つに大別されます。

  • 遺伝性(家族性)脊髄小脳変性症
  • 孤発性脊髄小脳変性症

遺伝性脊髄小脳変性症は、その名称のとおり発症原因が遺伝によるものです。遺伝形式の違いによって以下のタイプに分けられます。

  • 常染色体優性遺伝
  • 常染色体劣性遺伝
  • X連鎖遺伝
  • ミトコンドリア遺伝

上記のうち、もっとも多いのが常染色体優性遺伝です。つまり、父親か母親のどちらかが脊髄小脳変性症に関連する遺伝子をもっていれば、50%の確率で子どもにも病気が出現します。このとき、生まれてくる子どもの性別は無関係です。
常染色体優性遺伝とは異なる「常染色体劣性遺伝」「X連鎖遺伝」「ミトコンドリア遺伝」のタイプに関しては、世界的に報告が見られるものの稀か、または日本での確認がありません。

一方、遺伝以外のケースは「孤発性脊髄小脳変性症」に分類されます。こちらは、さらに2つに分けられ、それぞれ「多系統萎縮症」と「皮質性小脳萎縮症」です。いずれも原因は解明されていません。

両者のうち多系統萎縮症は、脊髄小脳変性症の純粋な症状、つまり運動失調以外の症状が混在します。とくに顕著なのがパーキンソン病に類似の症状です。このことから脊髄小脳変性症とは分けて、「多系統萎縮症」は単独の診断名として用いられています。

(前兆)症状

SYMPTOMS

脊髄症小脳変性症の症状は、運動失調が中心であるものの、発症形式(遺伝性or孤発性)によって症状は多様です。
しかし、いずれのタイプにしても運動失調が見られます。運動失調とは、以下のような協調運動の障害です。

  • 体幹の動揺
  • 歩行時のふらつき
  • 小脳性の振戦
  • 眼振(がんしん)
  • 構音(こうおん)障害
  • 嚥下(えんげ)障害

上記は運動失調の一例です。脊髄症小脳変性症では、バランスを調整する小脳の働きが障害されます。バランスが極端にわるくなり、動作は常に不安定です。歩行時のふらつきや体幹のブレが大きく、手指の細かな動作もうまくできません。

さらに口や喉の筋肉も協調性を失うため、発声がぎこちなくなり(構音障害)、飲食物の飲み込みにも支障がでます(嚥下障害)。
また、目の位置が固定できない「眼振」も特徴的な症状です。視線が動揺するため、視界の見づらさを訴えます。

この他、主要な症状とされるのが「パーキンソニズム」と「自律神経障害」です。これらは主に多系統萎縮症の患者さんで見られます。

パーキンソニズムとは、「パーキンソン病ではない」にも関わらず、パーキンソン病と同じ症状が認められるものです。具体的には、「安静時振戦」「筋強剛」「動作の緩慢」「姿勢反射障害」などがあります。
自律神経障害としては、起立性低血圧や排尿障害といった症状が特徴です。いずれもパーキンソン病に特徴的な症状ですが、多系統萎縮症でも同様の症状が見られます。

検査/治療

TREATMENT

検査

脊髄症小脳変性症の検査として、以下の項目があげられます。

  • 血液・髄液検査
  • 画像検査
  • 神経生理検査
  • 眼科・耳科検査
  • 自立神経検査
  • 遺伝子検査

診断を進めるうえでは、遺伝性と孤発性(非遺伝性)の分別が必要です。さらに、各種検査を通じて、脊髄症小脳変性症でない病気との鑑別がなされます。中心症状である運動失調は、脳血管障害や腫瘍、栄養素の欠乏などでも起こりえるものです。そのため、さまざまな検査を重ね、脊髄症小脳変性症の確定診断へと進みます。

とくに、以下の各種疾患・症状は、脊髄症小脳変性症との鑑別が必要です(※)。

  • 脳血管障害
  • 脳腫瘍
  • アルコール・薬物による中毒
  • ビタミンB1欠乏症
  • ビタミンB12欠乏症
  • その他のビタミン欠乏症
  • 中枢神経系感染症
  • クロイツフェルト・ヤコブ病
  • 脱髄性疾患
  • 膠原病
  • 傍腫瘍性疾患
  • 免疫介在性小脳失調症
  • 甲状腺機能低下症

※出典:日本精神神経学会・厚生労働省(監)「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018」P.198

治療

脊髄症小脳変性症の治療は、薬物療法とリハビリテーションが中心であり、進行に応じて呼吸・栄養の管理が行われます。ただし、治療は対症的であり、確立した治療法があるわけではありません。

現在、治療法として遺伝子治療や再生医療の研究が進められています。まだ実用化には至っていませんが、将来的には治療法が進展する可能性が期待されています。

また、脊髄症小脳変性症では生活上のケアが重要です。リハビリテーションをはじめ、福祉・介護の公的資源を活用し、生活の質を確保する取り組みが行われます。

当リハビリセンターのリハビリ

REHABILITATION

一般的なリハビリ

脊髄小脳変性症は進行性の難病です。その為、行うリハビリはお客様やニーズによって変わっていきます。共通するリハビリとしては、四肢の協調性と姿勢、バランスに関する訓練を実施していきます。
具体的な方法として、以下のようなものが挙げられます。

1.フレンケル(Frenkel)体操
背臥位、座 位、立位のように安定した姿勢から不安定な姿勢、簡単な運動から複合的な難しい運動課題に移行していきます。

2.おもり負荷(重錘負荷法)
運動学習を進め、運動・動作の改善をはかることを目的に利用し、上肢では200g~400g、下肢では300g~600g程度のおもりや重錘バンドを巻いた状態で行います。

3. 弾性包帯(弾性緊縛帯法)
運動学習を進め、運動・動作の改善をはかることを目的に利用するし、体幹や四肢近位部の筋の筋 腹から関節にかけて弾性包帯を巻いて圧迫して動作練習を行います。

4.PNF(Proprioceptive Neuromuscular Facilitation、固有受容性神経筋促通法)
固有受容器を刺激することによって、神経、筋の活動を促進しようとする手技です。運動失調に対しては、スローリバーサル(運動方向に抵抗を加えながら、等張性収縮を用いて拮抗する運動を行う手技)、リズミック・スタビリゼーション(等尺性収縮を拮抗する方向に、交互に抵抗を加える手技)などの手技が適応となります。

5.下肢装具
下肢の疾患や障害がある場合に、その保護や機能の補助などを行う目的で作成される装具の総称です。制御する関節は股関節、膝関節、足関節、および足部の各関節に適応されます。脊髄小脳変性症では靴型装具、下肢に痙縮のある症例には金属支柱付き短下肢装具を使用する場合もあります。

6. 歩行補助具
体重を支持し、バランスをとり、歩行を補助する目的で使用される補助具を指します。脊髄小脳変性症ではT字杖、ロフストランド杖、抑速ブレーキ付き歩行器もしくは重錘バンドを巻いた歩行器などが使用されています。

7.環境整備
主に在宅で生活する対象者への環境整備には、身体機能に合わせた設備機器の選択と住環境整備、周辺地域の町並みや公共交通機関、トイレなどの公共施設などの利用方法の伝達等が実施されます。(参考:脊髄小脳変性症理学療法ガイドライン より)

お客様個々のニーズに合わせたリハビリを実施していき、寝返り、起き上がり、立ち上がり、歩行と言った基本的動作に繋げていく事が重要となっていきます。また、目標を達成するためにも、お客様の能力を引き出すこともリハビリの一つです。その為にも精神面・心理面のサポートや新たな課題に対しても対応させて頂きます。

当リハビリセンターのリハビリ

当リハビリセンターは、病院と遜色のないリハビリが提供出来るよう、専門知識と最新の機器を兼ね備えた施設となっております。リハビリの内容は、麻痺による手を使用した作業、歩行を始めとした基礎動作等々、お客様のニーズに全て応えられるようになっております。
主な流れは、以下のとおりです。

  • 体験時にカウンセリング、全体の評価及びリハビリ
  • 体験後、問題点や課題を把握
  • 機能改善・目標達成までのプランを立案
  • お客様のニーズに合わせたリハビリを実施
  • 再評価・目標の達成度の確認
  • 目標達成

また当リハビリセンターは、一般的なリハビリ施設との大きな違いが2つあります。

(1)お客様のニーズを優先
お客様の身体能力、環境、進行度に合わせ総合的に考えたリハビリを実施していきます。また、今後予想される、変化や身体状況の対策・予防方法についても随時対応させて頂きます。また、弊社は福祉用具関連事業も展開しており、症状や生活に考慮した、福祉用具の相談も随時対応させて頂きます。
お客様が持っている「悩み」や「またやりたい事」があれば是非ご相談ください。私たちはお客様が求めているニーズ・希望に沿ってリハビリ計画と目標の立案を実施し、お客様に寄り添ってリハビリの対応を行っていきます。

(2)セラピストと最新のテクノロジーの融合
また当リハビリセンターでは、最新のテクノロジーを使用したリハビリにも力を入れております。身体を動かすには、お客様本人の意思が必要不可欠となります。セラピストがただ意図的に動かすよりも、「イメージした動作」と「実際の動作がリンク」することによって脳は活発になります。このことを繰り返し、「できた!」と言う感覚を増やし、モチベーションを上げることが脊髄小脳変性症のリハビリの基礎となります。
脊髄小脳変性症に関しても、HAL®を始めとしたロボットによるリハビリは即時効果、歩行能力の改善など多く報告されております。
それを実現するテクノロジーとして、当リハビリセンターでは、筑波大学が開発したロボットスーツ HAL®(Hybrid Assistive Limb®)や信州大学が開発した歩行支援ロボットcurara®を活用してリハビリを実施していきます。これらのロボットは、実際に脊髄小脳変性症を始めとした、脳・神経に関する疾患を患った方に対して、改善が見られた実績のあるリハビリロボットになります。
このようにセラピストの専門的な知識と経験、テクノロジーによるお客様の秘めている能力を引き出す事で後遺症の改善を目指していきます。改善した後は、そこから動作に繋げ、生活に繋げ、暮らしに繋げると言う順序で脊髄小脳変性症に対するリハビリを行います。

最後に

脊髄小脳変性症は進行性の疾患です。しかし、リハビリを導入することによって、その進行を遅らせることが可能となります。当リハビリセンターでは、リハビリロボットによる動作練習とセラピストによる、専門的な知見を掛け合わせ、お客様の能力に合わせた適切なリハビリを提供していきます。また身体状況に応じた難易度を設定していき、段階を踏みながら目標を達成していけるリハビリを行います。
些細な事でも大丈夫です。困っている事がありましたら是非、ご相談ください。私たちはいつでもお待ちしております。

この記事を書いた人

大野 真之介

大野 真之介

理学療法士 / 認定理学療法士(脳卒中)

2016年に理学療法士免許を取得。同年より愛知県内の大学病院で勤務し、回復期・急性期・外来のリハビリを経験。急性期ではSCU(脳卒中集中治療室)の専任理学療法士としても勤務。
これまで主に脳血管疾患・脊髄損傷・神経難病の方のリハビリに携わる。2020年に日本理学療法士協会の認定資格である認定理学療法士(脳卒中)を取得。2022年11月から脳神経リハビリセンター名古屋に勤務。
私は常に「一緒に進めるリハビリ」を心がけています。療法士がリハビリをするのではなく、お客様にも“動き方”や“変化”を知ってもらいながら、運動を通して目標達成を目指しています。目標に向けて一緒に挑戦していきましょう。全力でサポートします。